DV裁判によって接近禁止命令を勝ち取り、母はシェルターから戻りました。
これにより、A氏は前科一犯という事になりました。
【この話は前回からの続きです】➡ 必然の偶然:chapter6
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裁判が終わって有罪となっても、A氏の行動は何も変わらなかった
しかし、母が私の家にいる事は当然のようにA氏にカン付かれ、毎日毎日電話の着信がものすごい数に上りました。
「オマエがそそのかしたんだな!!」
「アイツにこんな知恵があるはずがない。オマエのせいでこうなったんだ!」
「オマエに人の家庭を崩壊させる権利はない!!」
私に向けられた、脅迫めいた暴言の数々。電話には出ず留守電にしておいたのですが、毎日呆れるくらいの録音が入っていました。
車で私の家の周りをぐるぐると徘徊する事も、接近禁止命令によって禁止されてはいたものの、誰に管理される訳でもなく……。
庭に出ている時に、見慣れた車が通り過ぎて行くのを目撃する事も度々でした。
母は原付の免許を持っていて私の家にはバイクで逃げてきたのですが、ある日突然家にバイク屋さんがやって来て、A氏に頼まれたと言って“キーを差し込む部分”を交換しようとした事すらありました。
バイク屋さんは「妻のバイクが娘の家で故障したらしいので、家の者は留守だけど庭先にあるものを勝手に修理してくれ」と聞かされていたそうです。
ですが、特に取り換える必要はないのでは?と不審に思ったとの事でした。
恐らく、キー自体を取り換えてしまえば、母はもうバイクに乗れないという嫌がらせだったのでしょう。
幸いバイク屋さんが来たのは私の在宅時だったため、バイクの無意味な修理は行われず、母はバイクに乗れなくなる事はありませんでした。
嫌がらせのような行為や言動がA氏の常套手段だった
着のみ着のままで自宅を飛び出した母の荷物は、全てA氏の手元にありました。母が持っていたのは、普段使いのバッグと、このバイクだけ。
さんざん交渉し、ほんの少しの衣類だけは何とかこちらに持って来る事が出来たのですが、それもかなり大変でした。
「アイツ一人で来なければ渡さない」
「冗談じゃない。私たちが一緒だと何か不都合でも?」
「まともな人間なら、自分の服くらい一人で持ちに来られるだろう」
「まともな人間なら、一人か複数かなんてどっちでも気にしないでしょう」
押し問答の後、指定された時間は夜も遅く。
「俺は翌日早いから、寝ているから、勝手に入って持って行け」
――ところが、内側からドアチェーンが掛けられていて入る事は出来ません。
そんなこんなで、数日経ってからようやく玄関先に投げ出されるように袋ごと置いてあるのを持って来ました。
子供の悪あがきのようにしか見えないそうした数々の嫌がらせも、今まで母は黙って耐えていたのだと、今更のように重い気持ちになりました。
そんな中、いよいよ離婚調停がスタート
そうした状況の中、いよいよ離婚調停が始まりました。
希望により、調停はそれぞれ別々の日に、裁判所に個別に出向く形で行われました。
母の状態は良くなく、私もその場に同席せざるを得ませんでしたが……A氏が調停の場で何を言うのかは、ほとんど分かり切っていました。
「自分は被害者だ。妄想癖のある妻を献身的に看て来たのに、なぜこんな状況になったのか」
そして、調停は裁判とは違って事実や証拠といったもので誰かの行為を咎める事も出来ない、ある意味裁判よりも厄介なものだと私は思っていました。 母の決心次第では話が宙に浮く、またはひっくり返る危険すら孕んでいました。
裁判所で語られる内容と、直接電話越しに吐き出されるA氏の言動の、何と違う事か……。でも、ここではそうした行為の食い違いを追及してみても何も始まらないのです。
離婚するのは、母本人。母がきちんと相手に固い意志を伝えない限り、相手の承諾(署名捺印)を得る事は出来ないのです。
調停は、実は私にはあまりしっかりとした記憶が残っていないのですが、多分二度程裁判所に出向いたように思います。A氏は、一度は行ったものの、二度目は裁判所に姿を見せなかったように思います。
それでも驚くべき事に、調停とは全く関係のない日常の中で、ある日突然あれよあれよという間に離婚は成立しました。
離婚成立を見越して、A氏の報復行動を恐れた母と私達姉妹は、やむなく父と一緒に住む妹夫婦の家に母を預けました。母にとっては、別れた前夫と同じ屋根の下に一時的にせよ暮らす訳ですから、緊急事態とはいえ何とも皮肉な話です。
でも、それが後になって、驚くべき結末を迎える事になるのです。
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※この記事は、2014年発売の「本当に母が死ぬ日~母は、その「時」が来るのを知っていた。」(Kindle版)よりほぼ同内容を抜粋・加筆し掲載したものになります。
