体験記「母の物語」

離婚成立〜それから:chapter8

ノンフィクション体験記「本当に母が死ぬ日」佐倉えりか

 
ゴタゴタとしていた公的機関を頼っての母の裁判・離婚劇でしたが、ある日突然、ビックリするほどあっけなくカタがついてしまいました。

「今日、電話した。離婚届にハンをもらってくるから」
そう言って、サッサとバイクに乗り自宅へと向かった母。その気迫と勢いに、私も妹もポカーンとしていました。
だって、まだ、離婚調停中なのですから……。
 

【この話は前回からの続きです】離婚調停:chapter7
【最初から読みたい方はこちら】幕が上がる時「本当に母が死ぬ日」:chapter1

まるで狐にでもつままれたように、あっという間に成立した離婚

  
あれほどA氏を怖がって、調停も別々に出向いていたのは何だったのか?
ともかく目的は「離婚」にあり、それが果たされようというのですから文句もありません。
そしてあっという間にハンの押された書類を持ち帰り、母は晴れて離婚を成立させて私の家に住民票を移す事が出来ました。

私達一同、さすがにここへ来てのこの展開の早さには驚き、夢でも見ているのではないかと思いました。一体 母に何があったというのでしょうか?
でも、本当に特別な事は何もなかったのです。母が自分からハッキリと離婚を切り出し、疲れ果てていたA氏がそれに応じた、ただそれだけの事でした。
 

実は、この頃から突然、母は妙な事を口走るようになっていました。
「私はもう長くないから……」
「何言ってるの、今はまだゴタゴタで疲れてるから気力が出ないだけだよ」
私も妹も、母のそんな言葉には全く取り合いませんでした。

――でも、母のこの言葉は真実でした。 私たちは、その時は忘れていたのです。母が常々「人の生死を予知していた」事を……。
そして私も妹も、後になって祖母の口から、母が「自分の死の二日前に、祖母(自分の母)に電話をしてお別れを告げていた」事実を聞く事になります。
  

離婚成立後、様々な手続きに追われながら……

  
離婚成立から慌ただしく、色んな手続きが待っていました。
まだ調停の次の呼び出し日も控えていましたから、その取り下げもしなければなりません。母が加入していた共済も「掛け金が負担になるから」と、解約のために数日後担当者に来てもらう事になっていました。

それに、母も正式に私の家に引っ越しをしなくてはなりません。住所も移し、本籍もまだ手続き中とはいえこちらに置く事になったのですから、いつまでも「別れた元夫(父)」の住む、妹の家にいる訳にもいきません。
  

そして、離婚届にハンが押されてから四日後のこと。その日は、私の息子の誕生日でした。
母と 私達姉妹とその子供達は、ショッピングモールのアミューズメントコーナーで遊んで、ファミレスで食事をしました。
その後、私と子供達は母をとりあえず妹の家に残して帰宅し、母は夕方ウォーキングをしてからキッチンに立って、久しぶりに煮物を作ったそうです。

「今日の煮物は特に美味いなあ!」
そう言ったという父は、実に十数年ぶりに母の煮物を食べたのではないでしょうか。
  

私の家に住民票を移してからわずか二日後に、母はこの世を去った

  
その夜、ふと 散らかりっぱなしの家の中が妙に気になりました。
「おばあちゃんが帰ってくるから、片付けようね」
私はおもちゃでゴタゴタしていたリビングを子供たちと一緒に片付けました。
そして、子供をやっと寝かしつけ 寝室の扉をそーっと閉めてリビングに来た、その時です。
電話が鳴りました。

「あ、〇〇(妹の旦那さん)ですけど……今、お母さんが倒れて……その、息をしてないんです」
母は、そのまま帰らぬ人となりました。私の家に住民票を移してからわずか二日後の出来事でした。
 

白い花の画像
 

母はきっと どこかで自らの死を予知し、人生にやり残す事のないよう急ピッチで離婚とそれに伴う手続きを済ませたのだと思うのです。
意欲を失くして生ける屍のようだった母が 周囲がびっくりするほどの勢いを見せたのは、自らシェルターに逃げる事を決意した時と、離婚届を手にするためにA氏の所に行った時だけでした。

でも、この二回とも、母はそれまでとは別人のようだったのを覚えています。あまりに毅然としていて、しかも突然なのでとても驚きました。
本来、母にはそういう行動力があったのですが、日々の中でA氏に抑えられてしまっていたのです。
 

この「最後の時間」に際して、いのちの底から振り絞るようなエネルギーを、神様は母に与えてくださったのではないか――私はそんな風に思っています。

例え命の残り時間を予知していたとしても、失くした気力はそう簡単には戻らないはずです。天の加護が母を大きく包んでいてくれたからこそ、母は最後の仕上げを、悔いのないよう成し遂げられたのだと思えてならないのです。
 
 
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【最初から読みたい方はこちら➡】幕が上がる時「本当に母が死ぬ日」:chapter1

※この記事は、2014年発売の「本当に母が死ぬ日~母は、その「時」が来るのを知っていた。」(Kindle版)よりほぼ同内容を抜粋・加筆し掲載したものになります。

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夕貴
自ら予言した通りに亡くなった母、突然倒れて帰らぬ人となった父……二人を見送った経験から「天国への旅支度」の必要性を痛感。見送られる側・見送る側それぞれの心に寄り添うエンディング、現代社会にマッチした新しい終活の在り方を模索し続けています。
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