体験記「友人の自死」

無意識にトラウマを塗り替えようとしていた?彼のYouTubeアニメ動画:回想編6

 
これまでの人生の苦悩を私に吐露する形で振り返りながら、この頃には彼は複数のブログと同時進行で、アニメのYouTube動画を作って公開するようになっていました。
思い起こせば、出会った当初はニコリともしなかった神経質そうな瑛人くんの表情が、この頃にはかなり柔らかくなり、時折笑顔を見せるようにもなっていました。
 

無作為に生きていた彼が自発的にアニメ作りをし始めた頃

 
「僕、鬱っぽかった頃は何もやる気が起きなくて、ゆるいアニメをぼんやりずーっと繰り返し見ていたんです。だから僕のように人生に疲れた人が、何も考えなくてもボーッと見ていられる動画を作りたい」
アニメの絵なんて一度も描いたことがないと言っていたそれは、子供のようなレベルでお世辞にも上手いとは言えませんでしたが、それでも毎回丁寧に絵コンテを作り、ネットで炎上する要素はないかどうか、表現を精査しては公開前に何テイクも試作を繰り返していました。

そして瑛人くんは、そんなアニメの進捗状況を毎回逐一私に報告してきました。
その様子を見ていると、私には、彼がこのアニメ作りを結構楽しんでいるんじゃないかなという風に思えました。
 


 

自身のトラウマをアニメ化し、無意識に昇華しようとしていた彼

 
最初は意味不明なドタバタっぽい話だったアニメの内容も、回を重ねる毎に次第に瑛人くんの実体験が織り交ぜられたものとなっていきました。
「あなたは前前世に人から恨みを買っていた」と告げる占い師もどきの話、部活の勧誘のために行動を監視カメラで追跡されていた高校生の話、借金の取り立てのはずがいい人過ぎて会社を潰してしまった闇金の話……。
 


 

以前私が言った前世の因果の話も、半信半疑と言いながらも、彼にとっては何か引っかかりを残すものだったのかもしれません。
また、瑛人くんも私も自営業だった父親が業績不振となり、一家で借金取りに追われたという過去があります。そんな心の傷が闇金のキャラクターをホワイト化し、トラウマを無意識に塗り替えさせようとしたのかもしれません。
 


 

アニメに自分の心境を重ねていた?「天国へ行けるらしい階段の話」

 
約半年間で瑛人くんが投稿した動画は7本ありました。
そのうち6本目の動画は『天国へ行けるらしい階段の話』というタイトルで、友達と一緒にその階段を見つけたので昇っていくと、そこにいたモンスターたちを倒すための戦闘が始まってしまい、最後に辿り着いたゴールには屍がたくさん転がっているというストーリーでした。

モチーフとしてはありふれたRPGゲームのような内容でしたが、天国へ行けるらしいと銘打ちながら、ラストが地獄絵図というのもなかなかシュールだと思います。
 

アニメのラストシーンで、地獄の入り口に立って屍を眺める主人公たちがこんなことを言っていました。
「関係ない話だけど、自ら命を絶つと地獄に堕ちるってよく言うよね」
「まあ自ら命を絶つと周りに迷惑かかるしな。俺たち善人って感じじゃないし、どっちにしろ天国みたいなところに行けたか怪しいけどなあ」
「中庸って感じだから天国と地獄の中間あたりの世界に行ってたかも」
 

瑛人くんが投稿していたYouTubeアニメ動画の一シーン。
主人公たちの言葉に自分の思いを重ねていたのではないかと思います。

【アニメ】天国へ行けるらしい階段の話
 

これは当時の瑛人くんの世界観をよく表していたように思います。もう10年以上も希死念慮を抱えてきた彼が、まるで自分の行く末を暗に指し示しているかのようなセリフではありませんか……。
 

戦闘を避けられる「人生の別ルート」があったのかもしれない

 
作品の中には、戦闘用の武器が備えてある部屋の片隅に、茂みに隠れた抜け穴のようなものが描かれています。アニメのラストシーンには、「あっちに別ルートがあってドラゴンとの戦闘を避けられたんじゃないか?」というセリフも登場しました。
これを瑛人くんがどういう意図で仕込んだかは分かりませんが、少なくとも彼自身は諍いの多かったこれまでの人生に、それを避ける道もあったことに気付いていたのかもしれません。
 

動画の概要欄には、生真面目な瑛人くんらしい言葉でこんなことが書かれていました。
 

『再生数少ないから今のところは問題ないだろうけど、再生数が多くなったらこの動画の影響で変な気を起こす人が出てくるかもしれないと思った
放送倫理的にはギリアウトな内容かもしれない
動画消すのもなんかもったいないなと思ったので年齢制限をかけてみた
まあ18歳以上は自己責任ってことでいいんじゃないかと
(中略)
天国がどうのこうのってちょっとスピリチュアルっぽい話の内容になったけど、「これがスピリチュアル的に絶対正しい」みたいな話にはなるべくならないように意識したつもり
あと、自ら命を絶つことを奨励するような話にはしないようにしたつもり』

 

ただ、私はこの時、瑛人くんはきっと立ち直るだろうと思っていました。病気のことは別として、過去に受けた心的外傷は、こうして吐き出すことが何らかの心理療法のような効果を持つのではないかと思っていたのです。
ずっと塗り替えたかった記憶を私にさらけ出しながら、彼は過去に戻って育ち直しをしていたのかもしれません。アニメの進捗状況を逐一私に報告してくる瑛人くんの姿が、得意気に「ママ―!見て見てー」とお絵かき帳の絵を見せに来た幼い頃の子供たちの姿と重なり、大の大人である彼がなぜか可愛く思えて仕方ありませんでした。
 

子供のような純粋さを持ったまま大人になってしまった彼

 
以前に一度、駅の側の小道を瑛人くんが歩いているのを見かけたことがあります。
そこで後ろから声をかけようと思って近付くと、彼は突然立ち止まり、小さな声で「ニャーン」と言ったのです。

ふと脇の植え込みに目をやると、そこには近所の家の飼い猫なのか、二匹の猫が丸くなって座っていました。
――その瞬間、何というか子供のまま大きくなってしまった瑛人くんの純粋さを覗き見たような気がして、私は声をかけるのをやめ、知らないふりをしてそっとその場を離れたのでした。
 


 

また、彼は小学生の頃に、飼っていたハムスターを脱走させてしまったことがあるそうです。そのことを大人になってからもずっと後悔して気に病んでいました。
私にも何度も「夕貴さん、あのハムスターは結局死んじゃったんでしょうか?僕はカルマを作ってしまったんでしょうか」と、その顛末をタロットで占って欲しいと頼んできました。

あまりと言えばあまりに純粋すぎて、瑛人くんはその心の清らかさゆえに、この世知辛い世の中では生きにくかったんだろうなと思います。
そうした彼の純粋さを垣間見る度に、私はなぜ今世この人の母親ではなかったんだろうと、切ないような憤りのような気持ちを感じるのでした。
 

▼「友人の自死」回想編:続きはこちら

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ABOUT ME
夕貴
自ら予言した通りに亡くなった母、突然倒れて帰らぬ人となった父。そして魂の家族とも言える大切な人を自死により亡くしました。それでもまだ彼らの魂は存在していることを、常に感じて記録しておきたい…そんな悪戦苦闘の日々を綴っています。

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