体験記「友人の自死」

これからも私は、小さな占いサロンの明かりを灯していこうと思う:回想編13

 
瑛人くんと連絡が取れなくなってから、彼の訃報が知らされるまでの間、私は日々淡々と占いサロンの仕事をこなしていました。
時々彼の状況を知らせるサインのような現象(白い蝶がひっくり返って死んでいたり、鑑定ブースの中にひらひらと小さな羽が舞い落ちてきたり)もありましたが、それでもただ彼が生きていることをひたすら願いつつ、心が乱されないように淡々と生活していました。
 

音沙汰のなかった状態から一転、事態は大きく動き出した

 
(※この部分は過去記事の内容と重複します)
 
最後に会った日から約二週間後の瑛人くんの誕生日、私はSNSに彼に宛てたメッセージを送りました。彼が読んでくれているかどうかも分からなかったけれど、その時の私に出来たのはそれが精いっぱいでした。

生まれてくれてありがとう
どんなあなたでも
ここにこうして存在してくれることが
もうすでに78億分の一の奇跡なんだよ
#あなたがそこにいるだけで

 
それから数か月が経った11月のある日、事態は突然、大きく動き出しました。
ある時、私のスマホに見知らぬ番号からのショートメールが送られてきたのです。
「息子の部屋に先生の名刺があり、私も鑑定をお願いできますか。」
 
当日、メールの主の女性は私のサロンに現れると、スッと一片のカード状のものを差し出しました。
「急な申し込みですみません、これ、私の息子なんですが知ってますか?」
それは、ずっと音信不通だったあの瑛人くんの免許証でした。
「ああ、知ってますよ。時々ここにも来てくれていましたよ」
「そうですか。ここに……。息子は夏に自殺しちゃってねえ……」
 
それを聞いた瞬間、「ああやっぱり」という思いが胸を走りました。
生きていると信じたかった。でもどこかで、彼はもう既に亡くなっていると感じていた私もいたのです。
 


 

瑛人くんが亡くなった後、ご遺族は「彼に付き添って病院に行ってくれた友人」がいたことを知ったそうです。でも、私がどこの誰かは分からなかったため、彼の訃報を知らせる術はないと諦めていたそうです。
そして彼の部屋を引き払うために片付けている最中、彼のお母さん(離婚して家族とは離れて暮らしていた)が私の名刺を発見し、もしやと思いわざわざ鑑定を申し込んで来てくれたという訳でした。
 
ずっと安否が気がかりだった瑛人くんの訃報。これは神様の計らいなのでしょうか?もしもあの日、彼と別れた直後にそれを知ったなら、きっと私は正気ではいられなかったと思うのです。
数か月という時を経て知らされたことで、私が受けるダメージは多少は軽減されたのかもしれません。
もちろん、なぜあの時連絡が途絶えてすぐに彼を訪ねなかったのかと、自分を激しく責めることになるのは避けられなかったのですが……。

さかのぼれば、私の名刺を瑛人くんに渡していたことも、彼に付き添って病院に行ったことも、それがなければ彼の訃報は私には届かなかったと思えば、何だか不思議な気もします。
 

彼のご家族に会い、お線香を手向けさせてもらった時の話

 
瑛人くんの遺影に手を合わせながら涙が止まらずにいた私に、彼のお父さんがこんなことを言いました。
「いなくなる二日前に行った時は、何かを悟ったような顔して穏やかにどっしり座っていたんだ。それがこんなことになるなんて思わなかったよなあ……」
あの日、私も同じことを感じました。「俺の人生、夕貴さんに出会えてラッキーだった」――そう言った瑛人くんの表情は、どこか吹っ切れたようにこの世のしがらみの外を漂っていたのです。
 
もしかしたら、あれが彼の旅立ちの合図だったのかもしれません。その後に続いた、「夕貴さんがいなければとっくに自殺していた」という言葉に安心しきっていたけれど、それは自死を思いとどまったという意味ではなく、『独りぼっちじゃなくて味方がいる状態で旅立てて良かった』という、本当の死に向かう無意識の決意だったとしたら……。
 


 

多額の寄付をしてしまったことに懲りて、瑛人くんはお父さんに通帳を預けていました。
通帳の記載額を見たお父さんは、もしかしたら誰かに騙されているのでは?と不安を感じたのだといいます。そこへ今後の生活の話になり、「知り合いの占い師が世話をしてくれてるから」と、彼はついポロッと言ってしまったのでした。

これが悲劇の発端で、占い師という私の職業が誤解を招き(私は男性だと思われていたらしい)、お父さんは「彼がおかしな洗脳を受けて大金を巻き上げられそうになっている」と思い込んでしまったようです。
私との付き合いを制止され、元々父親には頭の上がらなかった瑛人くんは、私の訪問を拒否する代わりに糸の切れた凧のようになって失踪してしまった、というのが事の真相でした。
 

悲劇的な順番とタイミングで掛け違えられたボタン

 
魂の底から分かり合えた気がしたあの病院帰りの日から一転、私に開いてくれていた瑛人くんの心が、一気にピシャリと閉じられてしまったように感じました。
どうしてこうなってしまったのでしょうか?
何か、どこかでやり方を間違えてしまったのでしょうか?
――いいえ、きっと誰も、何も悪くはないのだと思います。
 
占い師という私の職業が悪い訳でも、瑛人くんを制止した彼のお父さんが悪い訳でもありません。瑛人くんがした多額の寄付も、病気ゆえの自己肯定感の低さから判断を誤っただけ。全部が全部、悲劇的な順番とタイミングでボタンを掛け違えただけなのです。
 

多分、これは単なる引き金に過ぎなかったのでしょう。十数年もの間希死念慮を抱え、精神疾患にも苦しみ続けてきた瑛人くん。
社会的な落後者だと自分を呪い、そしていじめやパワハラが横行するような社会構造を呪った彼……。
 
「正直者がバカを見るような社会が、早くなくなればいいですよね……」
彼が待ち続けたパラダイムシフトという未来は、彼が生きてその日を迎えることはありませんでした。
 

時代の変わり目の中で

 
どんなに時が経っても、私の中のぽっかり空いた穴が埋まることはないし、彼の姿ももう二度と見ることは叶いません。それでも私は、瑛人くんの魂がまだちゃんとそこにあって、今も何かを伝えようとしてくれているのだと思いたいのです。
あの嵐のようなチャットのコメントが、まだこれからも続いていくような気がして仕方がありません。
 
瑛人くんが夢見ていた新しい時代の到来は、あるかもしれないし、ないかもしれません。私に社会を変えるほどの力はないし、ヒエラルキーが崩壊したとも到底言い難いでしょう。
ただ、時代は確実に変わってきているように思います。
 
これからどんどん変化していく、そんな社会を瑛人くんには生きて欲しかった。個としての存在が尊重され、自由と平等が求められる時代。立場や肩書によらない、自分らしさが最も大切にされる社会……。
 


 

反面、生きにくさを抱えて社会の枠からはみ出した自分を否定し続ける、そんな若者もまだまだ多いと思います。いじめや不登校、引きこもり、発達障害etc. 数年前と比べるとジェンダー絡みの相談も増えましたが、表に出せる風潮になりつつある今でも当事者はとても苦しんでいます。
そして彼らを取り巻く人々も、模索し、葛藤しながら出口を探して彷徨っているのです。
 
きっとこれからも、瑛人くんのような迷える若者は増えていくでしょう。時代の変わり目とはつまり、新旧それぞれの価値観がぶつかり合い、痛みを通して変容を迫られていくことなのだと思います。
いつの時代も先を行く者は打ち叩かれ、同調圧力によって頭を抑えられてきました。そしてそれを抑える方の側も、築いてきたものを脅かされるような不安を感じているのかもしれません。
 

名もなき小さな占いサロンの明かりをずっと灯しておきたい

 
そんな心のあちこちに傷を抱える人々のために、私はこれからもただ、この場所をずっと温めておきたいのです。
「あそこに行けば自分の居場所がある」――瑛人くんがいたあの頃と同じように、よろず相談所のような、名もなき小さな占いサロンの明かりを灯しておきたいと思うのです。

何を変えられる訳でもなく、何かをしてあげられる訳でもありません。ただ、どこにも行けずにはみ出してしまった、そんな自分でも存在していていいんだと、静かに頷いてやれる場所でいたいのです。
 

瑛人くんと出会い、図らずも、まるで三度目の子育てのような喜びを味わわせてもらいました。
時には振り回されもしたし、辛くやるせない喪失の悲しみも味わうことになりました。
そんな中で、こうありたいという私の本当の姿を、実は彼がずっと教えてくれていたのかもしれません。母を亡くし、父を亡くしたあの頃から、ずっと私の中に横たわっていたもの。確かにそこにあって、必要な時に必要なだけ、誰かの居場所となれるような場を作れたなら――。
 


 

瑛人くんと両親が待つ霊界へは、私はまだしばらくは帰れそうにない気がします。あともう少しだけこちらの世界に留まって、出来る限り精いっぱいを尽くしていきたいと思っています。
そうしてあちらで再会出来る日を、きっと彼らは、両手を広げて待っていてくれるでしょう。その時まで、ささやかだけど温かい、そんな明かりを灯し続けていこうと思います。

これから、どんな出会いが待っているでしょうか。通り過ぎていく思い出の中に、一つでもふたつでも、誰かの心にホッと灯るものを残してもらえたならと願っています。
 
 

ここまで長い間このシリーズにお付き合い頂き、ありがとうございました。
今後は単発の記事として、瑛人くんのことで何か進展があればまた綴っていきたいと思います。
 

ABOUT ME
夕貴
自ら予言した通りに亡くなった母、突然倒れて帰らぬ人となった父。そして魂の家族とも言える大切な人を自死により亡くしました。それでもまだ彼らの魂は存在していることを、常に感じて記録しておきたい…そんな悪戦苦闘の日々を綴っています。

POSTED COMMENT

  1. 夕貴 より:

    TAKEさま コメントありがとうございます。

    「全ては経験するために起こったに過ぎないイベントだった」
    非常に含蓄のある言葉だと思います。
    自分の人生は自分のものであり、誰かが干渉してきたとしても、きっとそれも「自分自身の体験」の内なのですよね。

    『誰も悪くない』を知るためのガイドの計らい……本当にそうだと思います。
    そしてそれを感じ取れるTAKEさまも、本当に素晴らしいと思います。
    このコメント欄が何かのお役に立てたのであれば、私も嬉しいです(^-^)

  2. TAKE より:

    夕貴さん、ご返信ありがとうございます。
    夕貴さんの返信の内容が自分にとってかなり重要な内容でしたので御礼申し上げます。
     
    自分は月キロン合でして、さらにキロン頂点リリス天王星底辺のトールハンマーがありまして、返信を読んだ直後から突然精神的に苦しくなり、最初は霊障なのかと勘違いしたのですが、直感でホロスコープとトールハンマーについて調べるよう来たので、その時刻のトランジットを出してみたところ、自分のトールハンマーに重なっている天体を合わせると合計で4つのトールハンマーが形成されており…。この苦しみは天体のイベントを経験しているに過ぎなくて、誰も悪くないんだと思ったと同時に、今までの苦労等の出来事も全て同じだったのだろうと、天体のイベントを他人を通して経験していたに過ぎず、誰も悪くないのだと、その境地に至ることができました。全ては経験するために起こったに過ぎないイベントだったと。
     
    たぶん、ここにコメントしたことは『誰も悪くない』を知るためのガイドの計らいだったような気がします。長年、人間不信を拗らせていた自分にとって重要な出来事でした。本当にありがとうございました。

  3. 夕貴 より:

    TAKEさま

    お久しぶりです。コメントありがとうございます。
    頂いた投稿の一部に公開が難しいかも?と思った部分があり、大変申し訳ないのですが一部を中略させて頂きました(^-^;
    私は難しいことはあまり分からないのですが、おっしゃる通り「巨大な怒りエネルギーに引き寄せられるネガティブ存在」というのはたくさんいるように感じています。
    「自分で自分の言動に責任を持てない人間が多すぎる(中略)法律や縦社会に頼らず自立して自分の言動に自分で責任取れるようになれば人類は変わる」というのも本当にその通りだと思います。
    社会が、人類が良い方に変わることを願ってはいますが、それはとても難しいことなのかもしれませんね。

    TAKEさまはリリス絡みのヨッドをお持ちなのですね。リリスは種類にもよりますが、案外侮れないものだと私も思っています。
    通常のホロスコープ読みではあまり注視されませんが、アスペクトの形成具合によってはしっかり視野に入れた方がいいかもしれませんね。
    同じように、キロンやヘッドも、場合によっては大きな意味を持つホロスコープもあるように思います。

    生きていくって大変なことだなと自分でも感じているのですが、それでもこの地上にいる間は一生懸命に生きたいと願っています。
    自分が何かを変えられるだなんて大それたことは考えませんが、目の前にある小さな事柄のたった一つだけでも、せめて大切に温めながら生きていこうと思っています。
    シリーズ記事を書き終えてから、ブログのネタがなくなかなか更新できませんが(笑)またぜひお立ち寄りいただけましたら幸いです。

  4. TAKE より:

    夕貴さん、お久しぶりです。
    シリーズと最新記事読みました。
    瑛人さんに夕貴さんの想いが伝わっている様子にこちらも感動します。繋がった瞬間ってやっぱり良いですよね。自分の場合は、他人には分からないだろうと思って体験を他者に伝える事は最初から諦めてしまいますが、ブログで発信されている夕貴さんは強いなと感じます。

    瑛人さんのヒエラルキー構造に対する意見は私も全く同じ意見です。ヒエラルキー構造とそれに奴隷のように従う人間の意識と長年植え付けられた『常識』という固定概念そのものが永遠に負の悪循環を繰り返しており、奴隷のように自ら考えない人間となってしまっているため、その悪循環に気づくこともできず抜け出せなくなっています。

    (※中略)
     
    その後、シュンガイトとチャネってて色々教えてもらったのですが、結局は相手に植え付けられた怒りのエネルギーをどこにぶつけるかによって、殺人または自殺の選択肢に繋がるようです。
    怒りを植え付けられた本人の心が弱かったり共依存関係の相手からの怒りエネルギーを受けた場合は怒りの原因の相手ではなく、立場の弱い他人への攻撃に転ずるし、怒りの原因の相手を守る代わりに自分へエネルギーを向けた場合は自殺となるのだそうで。
    自分の幼少期の自殺願望についても、親の抱えている怒りエネルギーを自分が無意識に請け負った因果らしく。その巨大な怒りエネルギーに引き寄せられるネガティブ存在がウジャウジャ湧いてたみたいです。
    この怒りを植え付けるという行為そのものを人類全体が終わらせない限り、殺人と自殺は終わらず、その根源にはヒエラルキー構造はもちろん、法律に守られているから法律の圏内だったりバレなければ他人に何しても許されるし殺人した奴が一番の悪者という法律に依存した思考の未熟さと、自分も過去に同等の事をされてきたからこれくらいやっても当たり前という負の悪循環も影響しているみたいです。つまり、自分で自分の言動に責任を持てない人間が多すぎるのです。人類は法律とか縦社会という名の保護者に管理保護されている幼稚園児のような状態らしいです。法律や縦社会に頼らず自立して自分の言動に自分で責任取れるようになれば人類は変わるのだと。
     
    夕貴さんの場合は、過去に裁判までされたお母様とその旦那様の一件で考えると少し理解しやすいかもしれません。
    おそらく、暴力暴言をされていた例の旦那様はどこかの別の誰かから怒りの種を既に植え付けられていた可能性が高いかと。その怒りの矛先は怒りを植え付けた当人ではなく、立場の弱いお母様に向かい暴力暴言という形で現れ、お母様が亡くなると怒りは自分に向かい自死という形として現れたのではないかと。法則的に考えた際の推測にはなりますが…。
     
    すみません、今回のコメントもめちゃくちゃ長くなりました。このコメントの主旨は死に関する情報共有なので、前回みたいにコメント非公開にしてもらって構いません。人類が受け入れるにはまだ早すぎる内容だろうなとも思ってますし…。
     
    自分のネイタルにはリリスを含めるとヨッドが2つ重なってアルプス型を形成しており、その内訳にはリリス冥王星8ハウス蠍座の要素が全て入っているため、死に向き合い続け、死に関する全てを経験して、全て受け入れる宿命みたいです。
    今までリリスは感受点だと思って甘く見てたんですけどめちゃくちゃ重要でした(今TヘッドNリリス合ですごい勢いで物事進んでるので)。リリスは、変な『常識』によって押さえ込まれた行き場の無い心の闇だなと痛感しているので、たぶん人類がリリス的価値観を拒絶せず受け入れられるようになるまで終わらない問題なのだと思います。『常識』というそもそもが偏った価値観を捨てないと無理です。私がよく他者に言われるのが『非常識』なんですが、人間それぞれの価値観が元から偏っていて、リリス的事象つまり『非常識』を拒絶するから悪循環が生まれるだけです。
    こんなヨッド持ちなので、また共有できそうな自死関連の情報が入ってきたらコメントしに来るかと思います。
    返信が大変であれば、ただ読んでいただくだけでも全然結構ですので。
    毎回長文すぎて、自分のコメントが余計なお世話になっていない事を祈ります。

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